若者拘束。その時野次馬の反応は?
「若造、なんていう名前だ?早く大声で言ってくれ。 じゃないと助けられないから」
名前をたずねるこんな呼びかけが沿道のあちこちから、 路上に向かって飛んでいた。9月15日夜、香港島の繁華街・ 銅鑼湾から地下鉄で2駅東側にある炮台山駅前のトラム通りで起き た出来事だ。 大勢の武装警察がトラム通りをふさぐように立ちはだかり、 野次馬がいる沿道にも目を光らせていた。そして、 通りの中央で一人の黒シャツ姿の若者が、 路上に座らされ羽交い締めにされていた。
(路上を占拠する武装警察)
野次馬の叫びは止まらない。警察に向かって、「あんたたちにだって、 子供や家族がいるでしょう。 若者になんでこんなにひどいことをするんだ!」、「 黒警察、さっさと立ち去れ!」などと大声で罵る。若者の拘束に、 目に涙をためて見守る女性もいた。
(若者拘束で警察を批判する市民ら)
家の近所でこんな事件が起きたことにショックだったが、この時、 私が耳にした言葉はすべて、若者擁護の声。 警察を応援する声は聞こえてこなかった。
私が見たのは、すでに大勢の武装警察と警察車両が道路を占拠し、 この若者を拘束していたところなので、 その前にどんなことがあったのかはわからない。 翌日の地元紙によると、 銅鑼湾から北角方向に向かって移動を始めたデモ隊を、 北角を地盤にしている福建省出身者(福建人)が、「 縄張りを荒らすな」とばかりに出陣。 北角駅の一つ手前の炮台山駅にやってきて、 デモ隊を阻止しようとして衝突したという。そこで、 警察が出動し、 冒頭のような野次馬たちの声を聞いたということになる。
それにしても、だ。香港警察を敵視し、 憎悪する市民がこれほど多いものかと思い知らされた。
折しもこの事件翌日の「明報」で、 それを数字で確認することができた。同紙が行った調査で、 警察への信任度が半減しているのだ。
(「明報」が実施したアンケート調査。青でマークしたのが警察への信任度)
大規模デモが起こる前は警察への信任度が10点満点中5・6だっ たが、9月上旬の最新調査では、2・89と、ほぼ半減した。 デモ隊の武力行為を行き過ぎだと答えた人が8月時点とほぼ変わら ず39・4%だったのに対して、警察に対しては、8月より4ポイ ント増えて71・7%だった。圧倒的に多くの市民が、 デモ隊よりも警察の武力行為の方が行き過ぎだと考えている。 そして70・8%の市民が、警察の武力行使を検証する「 独立調査委員会」の設置を望んでいる。(これは、今、 黒シャツのデモ隊が訴えている四つの要求のうち、 一番実施を望む市民が多い要求だ)
(武力行為が行き過ぎと思うかどうか。上がデモ隊に対して。下が警察に対して)
かつて香港人は、香港警察を「アジアで一番優秀」 と言って誇りにしていた。人気のテレビドラマは大抵、 警察を舞台にしたもので、 警官は香港市民にとってヒーローだった。 それが今は警察への不信感を募らせ、 警官の家族や子女まで攻撃の対象にさらされている。「 昨日までのヒーローが今日の敵」となったわけだが、 このあまりのギャップに、ただただとまどうばかりだ。