香港時間 - Hong Kong Time -

香港の今を、日常から、写真と文で読み解きます

仕組まれた? 環球時報記者殴打事件

8月13日深夜に香港国際空港で起きた 、「逃亡犯条例の改正案撤回」などを求めたデモ隊の暴力事件。ニュース映像と新聞記事を合わせて振り返ると、筋書きのある「香港警察支持」の映画のようだった。

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(写真は「大公報」から抜粋)


「俺は香港警察を支持する。殴りたければ、殴れ!」

 

結束バンドで両手両足をグルグルに縛られた丸刈りの男性が、黒T集団に囲まれて罵声を浴び、殴打されながらも、終始無抵抗で、平然とこう叫んだ。


場所は、世界屈指の空港と賞賛されている香港国際空港。まもなく日付けが変わろうという13日深夜、デモ隊の顔を間近でカメラに撮っている丸刈り男がいる。報道者が身につける上着を着ているが、不審に思ったデモ隊の一人が、男に記者証の提示と撮影目的を尋ねると、男は無言で走り出した。


「おまえ公安だろう」

黒Tたちが一斉に男を取り囲み、所持品検査をしながら吊るし上げる。バックから「I ♥️HK警察」と印刷されたTシャツ、中国本土の身分証などが出てくる。報道用のベストを着ていたのに「旅行で来た」と言う。苛立つ黒Tたちが次々と暴力を振るうが、無言で耐え続ける。(この映像を見た人はみな、デモ隊の暴力行為に猛烈な怒りを感じたはず。私は「香港は終わった」と思った)

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(写真は「大公報」から抜粋)


その後、中国政府系新聞「環球時報」が、男は同紙の記者(28)だと認めた。男(以下、記者)は一夜明けて退院。親中派新聞「大公報」の社長に付き添われて記者会見にのぞむ。「頭や腕はまだ痛いけど、たいしたことはない。記者の身分を明かさなかったわけ?自分の身を守るためさ」と、胸を張った。


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ニュース映像をつなぎ合わせると、チンピラどもに囲まれてもリンチを受けても怯むことなく対峙し、最後は何事もなかったようにサラリと事件を振り返るヒーロー映画のよう。こんな光景を見せられちゃったら、若い女性じゃなくても心を揺さぶられるだろう。まして、”デモ隊は悪”という情報統制が敷かれている中国本土の市民が見たら尚更だ。


案の定、中国本土ではこの記者の「俺は香港警察を支持する。殴りたければ、殴れ!」が、名言となり、一躍「英雄」になったそうだ。ネット上では「14億人の国民がついているぞ」「香港警察を支持しよう」「人民解放軍は早く香港を鎮圧しろ」といった書き込みが寄せられたと香港メディアが伝えていた。


空港占拠で外国人客らの搭乗を二日間に渡って阻んだり、この記者以外にも本土客(公安の可能性あり)に暴力を振るったり、警察と大立ち回りを繰り広げたりしたデモ隊の野蛮な映像は、世界中を駆け巡った。事件翌日、デモ隊は「ごめなさい」と詫びたが、香港と海外に与えたダメージは大きい。「香港は危険」というレッテルがまた一つつき、日本外務省も15日、渡航警戒レベル「1」(十分注意してください)を出した。(返還後の香港では初めて)

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(写真は「蘋果日報」から抜粋)


しかし、話はここで終わらない。


香港人は悔しがる。

「あれは、最初から仕組まれた罠。記者の発言や態度は落ち着きすぎだ」

「記者なら、記者の身分で来港許可を得なければいけないのに、彼は観光目的で入境していた。取材していたなら、英雄どころか違法行為で処罰されるべきだ」

「中国の公安が何人か黒Tを着て紛れ込んでいて、率先して記者に乱暴して、周囲の香港人を煽ったかもしれない。中国ならやりかねない手口だ」

ーーなどなど。


想像は自由だ。いくらでもできる。

でも、空港に限らず、ここ最近の抗議活動はとても暴力的で、香港がこれまでコツコツと築き上げて来た「香港らしさ」は、ここにきて急速に音を立てて崩れている。香港の未来がとても心配だ。