「香港の鉄の女」、政治活動から引退
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「香港の鉄の女」「香港の良心」「陳太(チャンおばさん)」と言われた陳方安生(アンソン・チャン)さんが6月26日、80歳を機に公民及び政治活動から身を引くと発表した。「香港版国家安全法」の導入の動きが進む中での引退宣言。一夜明けた香港の主要紙はやはり、読み応えがあった。
アンソン・チャンさんといえば、香港で知らない人はいない。サザエさん似の親しみやすい容貌はさておき、中国返還前の香港政庁時代には、総督に次ぐポジション、布政司に華人として初めて就任、最後の総督に仕えた。返還後の香港特区政府では行政長官に次ぐ政務局長として行政手腕を発揮した。引退後は立法会(議会)選に出馬して議員となったり、行政長官を市民が選ぶ「普通選挙」の実施を訴える恒例の民主化デモに娘さんと参加するなどしていた。最近では、親中派新聞から、外国勢力と結託して香港を混乱させている一人として非難されてもいた。
(立法会補欠選で当選し喜ぶチャンさん(左から2人目)と娘さん(左)、RTHKのネットニュースから)
チャンさんは引退発表文の中で、5月末に亡くなった娘(57)さんとの間で80歳になったら政治活動から身を引き、平穏な生活を送ることを約束していたと言う。
引退宣言の中で、愛娘の死という深い悲しみから立ち直るには時間が必要なこと。今後は孫娘と義理の息子のために時間を費やしたいとつづった。
さらに「香港は我が家。若者は前途に希望を持ち、法を守り、平和な方法でこの香港という都市の核心的価値を守っていって欲しい」と若者にメッセージを送った。
(引退宣言文=蘋果日報から)
チャンさんは今年2月に80歳になった。
80歳という年齢から、民主化のためにお疲れ様でしたという声がある一方で、なぜこのタイミング?といぶかる声もある。
明日(6月27日)から中国の全人代常務委員会で「香港版国家安全法」の詳細が3日間の予定で審議され、採択されれば即施行されるという状況だ。外国勢力と結託して国家転覆を図った人物は取締の対象になるため、その前に引退宣言したのでは?と言った憶測も出ている。
本日の主要4紙の取り上げ方は以下の通り:
《蘋果日報》ー2面
(大見出し)
「娘さんを亡くし沈痛な思いに打ちひしがれ、80歳のチャンさん政治活動から引退」
(小見出し)
若者に対して:「香港の核心的価値を守り続けて」
記事では、生い立ちから経歴、政府を離れて民主化運動に参加していた様子を紹介。
《明報》ー6面
(大見出し)
「娘さんを亡くしたことが大きなショックとなり、チャンさん政治活動から引退」
(小見出し)
若者に希望を持ち続けてと寄せ、香港は我が家であり続けると (引退宣言文の内容を抽出)
記事では、公務員を辞めて政治家に転じてからの活動を紹介。
《大公報》ー1面
(大見出し)
「香港を外国勢力に売り飛ばしたおばさん、突然民主派と袂を分かつ」
(小見出し)
1か月前までは中央政府を困らせていたのに昨日は身を引く声明を出してきた
市民から:国家安全法が正式に公布される前に態度を軟化した。暴徒たちはまだ目がさめないのか?
記事中では、外国勢力と結託しているとされる他の2人とともに国家安全法の導入案が出てくる前と今の言動の違いを紹介
《文匯報》ー4面
(大見出し)
「香港に害を及ぼした勢力」突然態度を軟化
香港を混乱させた責任逃れを図る
(小見出し)
政界から:政局を見て上手く立ち回る本性が暴露された (こうした勢力に)洗脳されている若者たちは目を覚ますだろう
記事ではチャンさんの、香港版国家安全法に抵触する可能性がある行為を列挙
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チャンさんといえば、香港に来た当初、彼女が政庁の華人トップとして活躍し、記者の質問に英語や広東語でスラスラ答えていて、香港はなんてところなんだ!と思ったのを覚えている。娘さんがチャンさんに寄り添ってデモ行進していた時に沿道の市民から「陳太!」と呼ばれて笑顔で手を振っていたのも懐かしい。チャンさんが80歳と知り、そして政治活動を終わりにさせると聞き、香港の一つの時代が終わったという思いだ。
明日から全人代常務委員会で「香港版国家安全法」が審議されるが、香港側では法制化に反対する民主派をはじめ、市民はただ結果を受け入れるのみだ。一年前は6月16日に市民200万人による反政府デモが起こっていたが、今は新型コロナで50 人を超える集会は禁止されている。民主派勢力の中には発言がトーンダウンしてきた人もいる。わずか一年で街のムードは全く違う都市のようになっている。
(冒頭写真はRTHKのネットニュースから)
#香港 #香港デモ #陳方安生 #アンソン・チャン #国家安全法