なぜ今、「撤回」宣言?
林鄭月娥行政長官が、あれだけ固執して撤回を拒み続けた「逃亡犯条例改正案」を本日(9月4日)、突然、撤回すると発表した。民主派市民が大規模抗議デモを繰り返してもぎ取った勝利で、香港の市民パワーの凄さを改めて世界にアピールしたといえるだろう。しかし、林鄭長官はデモ参加者が要求している「独立調査委員会の設置」についてはキッパリと否定するなど、「改正案の撤回」以外の要求には応じていない。このため、民主派団体は徹底抗戦の姿勢を崩しておらず、(撤回宣言当日の)今夜もデモ隊が旺角や寶琳駅で警察と対峙するなど、収束の兆しは見えていない。しかし、何故今このタイミングで急に撤回宣言なのだろう?
(6月9日の100万人の抗議デモ)
「撤回」を発表した今日(9月4日)は、撤回を求めて市民が立ち上がった6月9日の大規模抗議デモからちょうど88日目だ。この間、撤回派と政府支持派の市民の間の亀裂は深まった。若者らは立法会(議会)や地下鉄駅構内などで破壊活動を繰り返し、過激なデモを展開した。来港客は減り、ホテルやレストラン、小売店など観光関連業界は売り上げが大幅に落ち込んでいる。
(レノンの壁に8月5日のゼネストを呼びかける張り紙)
抗議活動で1000人以上が拘束される中で、市民は当初の「撤回要求」だけでなく「拘束者の釈放」や「独立調査委員会の設置」など5つの要求を掲げ「一つの要求も欠けることは許されない」と訴えている。このため、今回の林鄭長官の決定にも「政府は、我々の5大要求のうち、たった一つしか受け入れていない。決定も遅すぎる」などと批判。引き続き抗議活動を続ける構えを示した。今回の撤回宣言ですんなり収束とはいかず、まだ混乱が予想される。
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それにしても、だ。
今日(9月4日)の「東方日報」の一面は、戒厳令に近い「緊急法」の発動に向けて、政府の根回しが着々と進んでいるかのような記事だった。林鄭長官もこの法律について「研究中」と再三発言していただけに、撤回の発表は肩透かしを食らった感じだ。何よりこの決定には、後ろ盾になっている中国政府の同意が必要なはずだ。面子もある。また昨日は、ロイターが、林鄭長官が実業家グループとの非公開会合で本音を語った録音テープを公開した(私には涙交じりで語っているように聞こえた)。何かの力が大きく働いたか、何か裏があると考えるのが普通だろう。
香港政府も中国政府も、改正案の撤回だけでは市民の抗議活動は収まらないだろうことは織り込み済みに違いない。今後の展開を注視していく必要がある。
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【五大訴求】
・逃亡犯条例改正案の撤回
・6月12日の抗議デモを「暴動」と位置付けたことを撤回
・逮捕された抗議デモ参加者の釈放
・独立調査委員会を設立し、警察の権力濫用と元朗で起きた暴力事件を徹底調査する
・普通選挙の実現