香港時間 - Hong Kong Time -

香港の今を、日常から、写真と文で読み解きます

高層ビル化で消えた食べ物「飛機欖」

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5月26日、昔懐かしの香港のお菓子や小腹を満たすおつまみなどがデザインされた特別切手が販売された。どのデザインも可愛いだけでなく、立体的になっている。

 

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これらの切手に描かれた食べ物のうち、どれだけ知っているかは、日本人の香港オタクレベルや、香港人の世代を知るちょっとした目安になるかもしれない。

 

私は一つ、初めて見て知ったものがある。下の写真で示した「飛機欖」という食べ物だ。直訳すると飛行機の形をしたオリーブということになる。

 

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甘草などの薬草で作られ、1950年代から1970年代に売られていたそう。咳止めなどの効果があったそうだ。

 

名前から想像できないこの食べ物。行商人が飛行機を思わせる?楕円形の容器にこのお菓子を詰め込み、飛機欖売りと分かる歌を歌いながら街で売り歩いたそうだ(日本でその昔見られたた「焼き芋〜石焼き芋〜」みたいな感じ)。しかもこれ、注文を受けるとこの容器から取り出して袋に入れて投げて売っていた。

 

当時の香港人は、唐樓といわれる5階建てや7階建てぐらいの住宅ビルに住んでいたが、住民とこの菓子を売る行商人とは窓越しで売買をしていたのだという。

 

行商人の歌声を聞いた住民が、まず自宅の窓からお金を下に投げ(つまりお金を払い)、それを受け取った商人が、この飛機欖を袋に詰めて窓に向かって投げていた(つまり商品を渡した)んだとか!

 

お互いに建物の階段を昇り降りする手間暇がいらず合理的だが、香港の合理的な考えはこの頃、こんなところでも発揮されていたのだと知った。

 

業者は投げるための訓練も必要だったらしい。お菓子を入れていた容器が飛行機の本体のように楕円形なら、お菓子も楕円形だ。しかも、そのお菓子を飛ばしていたから、「飛機(中国語で飛行機の意味)欖(オリーブ)」となったわけだ。

 

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会社の20代と30代の同僚に聞いたら、「聞いたことはあるけど見たことはない」だった。調べたら、住宅の高層ビル化と共にこの行商人は消えて行き、地元テレビ局が取り上げた最後の行商人のおじいちゃんももう亡くなっていた。

 

切手を見ていてしばし、古き良き香港にタイムスリップしたようだった。飛機欖は果たしてどんな味なのか、どこかで見かけたら、食べてみたいものだ。