香港時間 - Hong Kong Time -

香港の今を、日常から、写真と文で読み解きます

(7)国安法と報道の自由の狭間でー最後の🍎日報を求めて

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6月17日に、中国に対して批判的な大衆紙「アップルデイリー」 の幹部5人が「香港国家安全維持法(国安法)」違反容疑で逮捕さ れた事件。報道の自由を揺るがす大事件に市民や社会はどう反応し ているのか? 日々のニュースや、実際に見聞きしたものをシリーズで記録してい く。(冒頭の写真は、過去の1面記事を散りばめた「アップルデイリー」の見開き特集)

 

今回のテーマ:最後の🍎を求めて

 

昨日の「アップルデイリー」廃刊発表から一夜明けた、24日朝。「絶対に買わなくちゃ!」と思って普段より30分以上早い、朝7時30分 に近所のコンビニに行く。今日付け新聞は26年の歴史に幕を閉じるとあって、過去最高の100万部を発行したという。幹部5人が逮捕された翌日、18日付けの50万部の2倍の部数だし、いつもより早くこのコンビニに行くのだ。うずたかく積み上げられ買い手を待つ新聞を携帯のカメラに収めるつもり満々だった。

 

ところが。。。


あれ?

 

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(「アップルデイリー」の棚は空)

 

蘋果日報」と書かれた棚は空。大量に配送する関係でまだ届いていないのか、と思ったら、

   「 『アップルデイリー』は売り切れたわ」と馴染みの店員さんのまさかの言葉。

   「え?売り切れ?」
   「一人で大量に買っていく人が続出してあっという間になくなったのよ」
   「そんな、ばかな。。。」
長年読み続けた新聞の最後が買えないほど、悲しいことはない。近くのコンビニや新聞スタンドを4店も回ったが、「あー、さっき売り切 れたよ」「もう売り切れたわ」とバッサバッサと無情な響き。

 

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(「アップルデイリー」売り切れの張り紙)


いつもならこの時間帯、絶対に新聞棚に置いてあるのに。 私の想像以上に、『アップルデイリー』の最後に市民が反応している。

 

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(「アップルデイリー」が売り切れ状態の新聞販売店)

 

いつもコンビニで売り切れになった時に、最後の切り札でいく小さな新聞販売店が頭をよぎる。一縷の望みを持って行くと、 市民が列を作っている。どうにか手に入れることができた。

 

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(「アップルデイリー」を買い求める市民)


一旦家に戻り、出勤の支度をして地下鉄駅に向かう途中でさっきの新聞販売店を通りがかったが、立ち寄る市民に「 売り切れよ」と答えていた。


午前9時前、オフィスの最寄り駅に着き、たまに新聞を買う販売店に立ち寄ってみた。この店も、「 売り切れだよ」と店主。ただ、その後に、「正午においで。追加の新聞が入ってくるから 。正午からまた売り出すからさ」と続けた。この言葉に、驚いて喜ぶ人あり、 「12時ね?」と確認する人あり。なんか敗者復活戦みたいだ。


午前11時50分ごろ、この新聞販売店に行ってみる。すでに30 人ほどが列を作って、新聞の到着を待っていた。若者だけでなく、 年配の男女も少なくない。おばあちゃんもいた。行列を見て「 何の列なの?」と聞く市民も。やがて新聞が到着し、店員が客の言う部数に応じてどんどんさばいていった。購入部数に制限はなく、 10部まとめ買いなんて人たちも。


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(午後からの敗者復活戦(「アップルデイリー」購入)に並ぶ市民の長蛇の列)


「黄色」と比喩される民主派市民向けの情報アプリでは、各地の新聞販売店の「アップルデイリー」の在庫状況を伝えるページがあった。それを見て、 午後から買いに走った人もいた。香港らしく、正規価格は1部10香港ドルなのに、15香港ドルや20香港ドルで売る店まで出てきていたそ うだ。(さすが香港、こういう投機的な動きは、 どういう時でも起こるものだ。投機の対象になっていたということ は、それだけ販売部数よりも買いたい人が多いということ)

 

さて、最後の新聞。1面は「雨の中での辛い別れ、我々はアップルデイリーを応援している」という見出しで、ネクスト・ デジタル社の前に多くの市民が駆けつけて、同社や同紙の最後を見守った様子が綴られていた。そのほか、「また会おう」として、過 去の様々な出来事を写真中心に紹介していた。

 

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(最後の「アップルデイリー」の一面)

 

過去26年間の1面を飾った様々な写真。ゴシップネタも含めて、 どれもこれも、懐かしい香港の歴史が詰まっていた。

 

多くの香港市民が、幹部逮捕から廃刊までのこの1週間の急激な変化に驚きつつ、ある人は記念に、ある人は政府への抗議の意味を込めて、またある人はアップルデイリーに感謝の意を込めて、あるいは香港でこれだけ自由に情報発信できた歴史の一片として、最後の「アップルデイリー」 を買い求めたのだった。明日から、もう、「アップルデイリー」はない。その現実が始まる。