6月17日に、中国に対して批判的な大衆紙「アップルデイリー」の幹部5人が「香港国家安全維持法(国安法)」違反容疑で逮捕された事件。報道の自由を揺るがす大事件に市民や社会はどう反応しているのか? 日々のニュースや、実際に見聞きしたものをシリーズで記録していく。(写真は6月23日付け「アップルデイリー」内の読者に感謝する広告)
今回のテーマ:さよなら🍎
ついにその日がやってきた。大衆紙「アップルデイリー」を発行する「壱伝媒(ネクストデジタル)」は23日、24日付を最後に同紙の発行を終えると発表した。「中国に批判的な新聞」、「民主派新聞」と言われた同紙は創刊から26年で幕を下ろす。
(6月23日付、「アップルデイリー」に感謝する広告)
最後の1日は目まぐるしかった。
朝、同社のネット週刊誌「壱週刊」が終わりを告げた。昼には「アップルデイリー」で社説を書いている主筆も国安法違反容疑で逮捕されたとのニュースが流れる。そして午後には、明日を最後に新聞の発行を終えると告げた。
夜、テレビニュースは、「アップルデイリー」の話題で持ちきりだった。創刊からの26年間の歩みも映像とともに映し出された。
(「アップルデイリー」の廃刊を伝えるCATVニュース)
1995年6月の創刊当時のことは私も良く覚えている。発行前からこんな感じで話題だった。
🍎中国返還を目前にして、反中的な人が新聞を出すらしい。
🍎「蘋果(りんご)?」それ新聞名?
🍎値段も2香港ドルって他紙の半額以下!?
もちろん、創刊紙は買った。当時では珍しく紙面はカラー印刷。斬新で、新感覚の紙面だった。部数を伸ばす🍎に対抗して、他紙も定価の5香港ドルを2香港ドルに引き下げて対抗した。それぐらい新聞市場にインパクトを与えた。
(「アップルデイリー」創刊時のTV CM。人物はジミー・ライ氏。CATVニュースより)
ゴシップやスキャンダルネタも少なくなく、物議をかもすことも少なくなかった。しかし着実に読者を増やし、消えたライバル紙も有れば、アップルデイリーに市場を食われた新聞も少なくない。
政府を批判し民主派を応援する紙面が、徐々に浸透していった。民主化デモへの参加を呼びかけたり、デモ当日の新聞に、デモ用ポスターも織り込んだ。多くのデモ参加者がそのポスターを手に香港島の主要道路を行進した。
ジミー・ライ氏自身が民主派デモに姿を表すようになったのは、2014年の雨傘運動からだ。この頃から新聞もより反政府的に先鋭化していってように思う。
国安法が施行されてからも、反政府的な姿勢は崩さず、むしろさらに先鋭化し、やり過ぎじゃないの?と感じることもあった。政府は「言論の自由」とアップルデイリーの幹部や同社が国安法違反の容疑をかけられていることとは別だという。しかし、26年の歩みをテレビで見ながら、アップルデイリーの報道がなかったら発覚しなかっただろうなと思う政府関係者のスキャンダルも確かにあった。
林鄭月娥行政長官は先日、「メディアは香港政府を批判できるが、政府を転覆する意図、組織、扇動があれば、それは別問題だ」と語った。民主化デモで常に叫ばれていた「○○行政長官下台!(○○行政長官は辞めろ!)」はもう禁句だろう。香港社会はかなり窮屈になりそうだ。
(6月23日付。「アップルデイリー」に感謝する広告)