香港時間 - Hong Kong Time -

香港の今を、日常から、写真と文で読み解きます

始まった政府の「秋後算帳」

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香港国家安全維持法(国安法)が施行されて一ヶ月余り。昨年6月から続いている民主派市民の反政府活動に対して、中国政府による「秋後算帳(時を待ってやり返すこと)」が本格化してきた。メディア関係者が逮捕されたことに新聞業界は「言論の自由の危機だ」と激しく抗議しているが、今後どんな展開になってくるのか、メディアならずとも気になるところだ。

 

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(RTHK のニュースサイトから引用)


今朝(8月10日)、テレビをつけたら、香港警察が民主派大衆紙蘋果日報(アップル・デイリー)」創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏を国安法違反の疑いで逮捕したとテロップが流れていた。ライ氏の2人の息子や、同紙の編集責任者など7名を逮捕したことも伝えられた。さらに夜になって、流暢な日本語を話し日本のメディアにもよく登場する周庭(アグネス・チョウ)さん、英国メディアの特約記者、李宗澤(ウィルソン・リー)氏ら3人も国安法違反の疑いで逮捕されたと報じられた。

 

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(ウィルソン氏が契約している英メディアが、彼の逮捕を伝えるサイト画面。RTHK のニュースサイトから引用)


蘋果日報を発行する壱伝媒(ネクスト・デジタル)本社には、約200人の警官が押し寄せて、段ボール25箱分の資料を押収したという。

 


深夜に会見した警察幹部によると、男性2名と女性1名は、一年ほど前に設立した(反体制)組織の日常業務の責任者であることが、別の容疑者は海外口座を通して巨額の抗議活動資金を動かしていることが、それぞれの逮捕容疑であり、ネット上での書き込みが理由ではないことを明らかにした。

 


また、今回の一連の逮捕は、先週末に米国が中国政府と香港政府11人に与えた制裁に対する報復ではないと語った。(ちなみに警察は逮捕者の名前は公表しておらず、23ー72歳の男性9人、女性1人としか明かしていない。メディアが、独自に名前や顔写真を公表している)

 


6月30日夜に施行された国安法によって、7月1日には「香港独立」などと書かれた旗を持っていた男女10人が、7月30日には独立を主張する団体の元代表ら男女4人が逮捕された。さらに8月1日には、羅冠聡(ネイサン・ロー)氏ら英米などに滞在する民主活動家6人が指名手配された。そして今回の逮捕ーー。国安法という法制度を手に入れた政府側は、過去1年分の破壊活動などの抗議活動に対する清算とばかりに、大きく動き出した。(やらせるだけやらせて、“時を待って報復する”という中国のことわざがあるほどで、中国の得意のパターン。某ドラマではないが、いわば倍返しが始まった。ちなみに、やられたらやり返すは「以牙還牙」)

 


ライ氏は香港民主化運動の熱心な支持者として知られる。12歳のときに広東省から香港に密航し、工場で働きながら独学。その後独立して、“香港のユニクロ”と言われるカジュアル衣料のチェーン店「ジョルダーノ」を創業した。(実際には、ユニクロがジョルダーノのコンセプトを参考にしたと言われている)

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(RTHK のニュースサイトから引用)


しかし、折につけて反中的な発言をしてきたため、中国本土でジョルダーノの事業展開に支障がおき、ライ氏はジョルダーノから手を引く。1995年に創業したネクスト社に専念し、その後台湾でもメディア事業に乗り出した。2014年の雨傘運動や昨年の反政府デモにも参加している。


そのネクスト社。香港の株式市場に上場しているが、同社を応援しようという買いが広がり、10日の終値は前週末比2.8倍に急騰した。

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(HKet ネットより)


明日(8月11日)、香港紙がどんな風に伝えるのか、蘋果日報は発行できるのかーー、注目だ。

 

*冒頭写真は、今年6月にネクスト社が、「蘋果日報(アップル・デイリー)」創刊25周年を記念して発行した冊子の表紙