香港時間 - Hong Kong Time -

香港の今を、日常から、写真と文で読み解きます

(5)国安法と報道の自由の狭間でー行政長官語るー

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6月17日に、中国に対して批判的な大衆紙「アップルデイリー」の幹部5人が「香港国家安全維持法(国安法)」違反容疑で逮捕された事件。報道の自由を揺るがす大事件に市民や社会はどう反応しているのか? 日々のニュースや、実際に見聞きしたものシリーズで記録していく。

 

今回のテーマ: 行政長官のアップル事件についての見解

 

これまで2回記者からのアップル事件への質問に無言だった林鄭月娥行政長官が6月22日、ようやく事件について触れた。

 

ザックリ言うと、今回の幹部逮捕や資産凍結は、国家の安全を危険にさらす疑わしい行為が問題になっているもので、「報道の自由」以前の問題、と一刀両断。「『香港国家安全維持法(国安法)』は抑止力があり、長期的に香港に平和と安定をもたらす。法律があるなら用い、厳格に執行し、違法なら必ず追求する」と強い口調で語った。

 

以下は、RTHKのネットニュースとアップルのネットニュースから引用。

 

今回の警察の行動は、一般の報道とは無関係だ。国家の安全に危害を与えるもので、報道の自由にも打撃を与えた。報道機関も等しく法を守らなければならない。

 

警察の行動は全て法に基づいたもの。保安局長がアップルデイリーの資産を凍結したのは、国家に危害を与えるのを防ぐための措置だ。この措置で、労使紛争が起こり、従業員が損害を受けるなら、法に基づいて(被雇用者を)支援していく。

 

国安法では、国家の安全とともに人権を尊重し保障している。ただし、人権保障の中で個人の自由は絶対ではない。国家の安全、公共の秩序、公衆衛生などが関われば、個人や団体の行動は制限される。

ーーーーー

会見中、親中テレビ局と言われる「TVB」の記者が、「アップルが運営停止するかもしれないが残念に思うか」と尋ねると、行政長官は「政府は国安法に基づいて、法律違反を調査する必要がある」と強調。また、「法律を真に執行することは社会全体に利益をもたらし、抑止効果をもたらす。国安法は香港が長期的に平和と安定を維持できるよう、最大限の効果を発揮する」と語った。さらに、「メディアは香港政府を批判できるが、政府を転覆する意図、組織、扇動があれば、それは別問題だ」と言い、心境などは語らなかった。

 

アップルデイリーの記者は、記者会見中は質問できず、行政長官が立ち去る時に、「今回の事件で800人近くの従業員が職を失うことを余儀なくされるが」とコメントを求めたが、行政長官は何も答えず会場から立ち去ったという。

 

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「国安法」を手に入れた行政長官や政府高官は、反政府デモ当時とは別人のように強い政府の顔になっているというのが私の印象。

 

(参考サイト)

蘋果日報情況 特首稱國安法須嚴肅執行不能形同虛設https://news.rthk.hk/rthk/ch/component/k2/1597045-20210622.htm

 

國安搜蘋果︱林鄭拒答《蘋果》追問 會否解凍資產將依法辦事:不讓國安法虛設
https://hk.appledaily.com/local/20210622/GSMGAB23UVCD3LGQVVA5NBYY7E/

 

 

(4)国安法と報道の自由の狭間でー迫るアップルX DAYー

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6月17日に、中国に対して批判的な大衆紙「アップルデイリー」の幹部5人が「香港国家安全維持法(国安法)」違反容疑で逮捕された事件。報道の自由を揺るがす大事件に市民や社会はどう反応しているのか? 日々のニュースや、実際に見聞きしたものをシリーズで記録していく。(冒頭の写真は、最終回となった「アップルデイリー報道」から)

 

今回のテーマ:

「アップルデイリー」に迫るXデー

 

当局によって7つの銀行口座、約1800万香港ドル(約2億6000万円)が凍結され、まさに兵糧攻め状態の「アップルデイリー」。この資金凍結が解除されない場合、約1000人の従業員への給料が支払えない。香港は、就業規則で定めた毎月の締め日から7日以内に給料を支給することが香港の労働法で義務付けられている。7日以上過ぎると違法行為として罰せられる。

 

21日午前中には、26日が最後の新聞発行日になるかもというニュースが流れたが、この日すでに多くの社員が退社したため、夜には、23日には新聞発行もネット配信も終了する見通しとのニュースが流れ出した。いずれにしろ、この流れだとあと数日。

 

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(CATVのネットニュースから)

 

毎晩9時30分から動画でニュースを放映している「アップルデイリー報道」は、最後にキャスターが「今日は最終回です」と告げ、260日もの夜間に配信できたことや、視聴者への感謝などを伝えて終えた。その後、ネットで経済ニュースを伝える「アップルデイリー財経網」も深夜に更新を停止した。


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(「アップルデイリー報道」ネットでは市民の感謝や惜しむ声が)

 

「アップルデイリー」は、20日に創刊26周年を迎えたばかり。7月1日を待たずに、一気にXデーが近づいている雰囲気だ。政府による発行停止処分ではなく、企業の経営難による発行停止という、“自社決定”の体裁となる。こういう風に誘導していくあたりが、中国および香港の政府はお見事というか、実に狡猾。

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(6月21日付「アップルデイリー」)

 

「アップルデイリー」は、二年前の反政府デモから、それまで以上に民主派市民支持の旗幟を鮮明にしてセンセーショナルに走り、読者を煽る部分もあったと思う。ただ、国安法違反が疑われた問題の記事とはどれだったのだろうか?

 

どうせなら最後の新聞は、過去26年の中での、「アップルデイリー」らしい輝かしくも誇れる記事の特集にして欲しい。

(3)国安法と報道の自由の狭間でー主要各紙の社説ー

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6月17日に大衆紙「アップルデイリー」の幹部5人が「香港国家安全維持法(国安法)」違反容疑で逮捕された事件。報道の自由を揺るがす大事件に市民や社会はどう反応しているのか? 日々のニュースや、実際に見聞きしたものをシリーズで記録していく。(冒頭の写真は「アップルデイリー」の社説)

 

今回は、事件翌日、6月18日の主要各紙の社説。

 

同業他社は今回の事件をどう見るのか? 気になったので「アップルデイリー」など6紙にザッと目を通した。

 

気づいたことは2つ。

●「アップルデイリー」を擁護する内容は1紙もなかったこと。

●「明報」の社説は、全く別のテーマだったこと。

 

実は私が一番読みたかったのは、「明報」の社説だった。が、期待した「アップルデイリー」の事件ではなく、米ロ首脳会談に関するものだった。

 

 

反政府デモで、警察が放ったゴム弾が少女の目にあたり失明したとのセンセーショナルな記事をきっかけに市民の警察への反感や暴力行為はエスカレートしていった。この急先鋒が「アップルデイリー」の記事だった。しかし最近、この女性は失明しておらず、昨年香港を離れて台湾に向かっていたことがわかった。そんなことを具体例にあげる社説もあった。(ちなみに、少女の目に当たったのはゴム弾ではなく、デモ隊が放ったパチンコ玉が誤って当たってしまった、という説もある)

 

以下、社説の一部をザックリと。

 

【アップルデイリー】

「アップルデイリー」は2日後(6月20日)の26歳の誕生日(創刊記念日)を前に、災難が発生した。昨日(6月17日)、500人の警官に本社ビルを封鎖され、6時間近くに及ぶ捜査で、ニュース資料や、少なくとも44台のコンピューターを押収された。幹部5名が逮捕され、3社の資産も凍結された。理由は外国の組織などに対し、香港と中国への制裁や敵対的行動を求め「香港版国家安全法」に違反した容疑だ。

当局は、同業者に我々とは距離を置くよう忠告し、我々にも行動に注意するよう警告した。 「アップルデイリー」も、香港の報道の自由も、危機に瀕している。

1年も経たずに当局から2回も標的にされ、新聞発行への影響は避けられない。 しかし、我々は、当局から抑圧を受ける一方で、読者もいる。 これまで報道の自由言論の自由を享受していた香港市民は、これらの権利を簡単に放棄できるのだろうか。「アップルデイリー」への愛憎を簡単に放棄できるのだろうか。

大規模捜査には震えたが、読者から応援メッセージをもらった。応援ありがとう。我々は、各々の仕事に忠実に夜明けが訪れるまで戦い続ける。

 

 

【大公報】

国家の安全保障を維持するための今回の警察の行動は、香港社会から確固たる支持を受けている。社会の混乱を狙う香港内外の勢力は「報道の自由」と称して、警察が「報道の自由」を抑圧しているというが、根拠のない非難だ。基本法は、香港居民の言論、報道、出版の自由を保証しているが、国家安全保障の最低ラインを超えてはならない。

警察の法執行の根拠や、逮捕者の犯罪に言及せずに、警察の「権力乱用」のイメージを造成し、市民を誤解させ、国際世論を味方につけようとした。f:id:hongkong2019:20210620220529j:image

 

【文匯報】

「アップルデイリー」は、外国勢力と繋がる人物のもとで、中央政府と香港政府の信用を失墜させ、偏見と虚偽の情報で市民に政府への憎悪を広め、国家と香港を危険にさらすよう扇動した。国安法および関連法に違反した者は、職業上の地位や経歴に関係なく、法律によって厳しく罰せられる。 「アップルデイリー」とその関係者は、ジャーナリズムを傘として、国家を危険にさらし、香港と市民を傷つけた。法の裁きは避けられない。

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【星島日報】

2014年の雨傘運動から2019年の反政府運動まで、ジミー・ライ氏と「アップルデイリー」が果たした政治的役割は明確だ。彼は米国の政治指導者に会うために何度も渡米し、特別な待遇を受けた。また、中国と香港に制裁を課し、北京に圧力をかけるように西側諸国に呼びかけた。反政府デモ中、「アップルデイリー」の一部の報道は、事実と矛盾するセンセーショナルな伝え方をしていた。「時代の革命」というスローガンを扇動し、外国が中国を制裁すべきだとの世論を作りあげた。ライ氏の政治的陰謀のために、「国安法」施行後も違法行為を続けた「アップルデイリー」の行為はジャーナリズムとは何ら関係がない。同じメディアやジャーナリストとして、「アップルデイリー」が捜査されるのは辛いが、ライ氏は新聞という公器を私的に利用し、メディアを変質させた。報道は報道に徹し、政治は政治に任せる。これこそが真のジャーナリズムだ。

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【東方日報】

反中のために香港を混乱させ、権力を掌握するために外国勢力と共謀してきたネクスト・メディア社と「アップルデイリー」は昨日、致命的な打撃を受けた。国安法施行後も故意に罪を犯し、法治に挑戦し続けた。報道の自由を装って、法の抜け穴を恣意的に悪用した。資産1800万香港ドル(約2億6000万円)と7つの銀行口座が凍結された。同社株も取引停止になった。資金とマンパワーが足りずどうやって新聞を発行できるのか? 香港の中国返還以降、ジミー・ライ氏は香港での反中の最前線に立ち、黒金を使って反中の政治家を多数育て、「アップルデイリー」を使って反中の世論を作り上げてきた。「アップルデイリー」は閉鎖され、すべてが報告される時がくる。米国のために戦うなど、夢に過ぎない。

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(2)国安法と報道の自由の狭間でー朝の新聞販売店ー

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6月17日に大衆紙「アップルデイリー」の幹部5人が「香港国家安全維持法(国安法)」違反容疑で逮捕された事件。報道の自由を揺るがす大事件に市民や社会はどう反応しているのか? 日々のニュースや、実際に見聞きしたものをシリーズで記録していく。

 

ーー事件翌日の朝の新聞販売店はーー

6月18日朝、新聞販売店は行列ができていた。その前に山積みになった「アップルデイリー」がドカンと置かれ、次々と買い求められていく。中には、3部、5部とまとめ買いしていく人も。去年の8月に、「アップルデイリー」の創業者、ジミー・ライ氏が逮捕された翌日と同じような光景だ。前回は55万部を発行した。今回は50万部だ。編集幹部が逮捕され、パソコンなどが押収され、発行できるのか?と思ったが、前日に「50万部を発行する」と宣言した通り、新聞は店頭に並んだ。

 

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朝、会社の同僚が、「新聞はどこで買ってるの?」と聞いてきた。彼はオフィス近くで新聞紙を買ったことがないらしい。というか、日頃ネットでしかニュースを見ないようで、紙媒体は全く買わないらしい。「オフィス近くのコンビニは定価のHKD10だけど、駅前の販売店はHKD9だよ」と教えると、早速駅前に買いに行った。「まだあった」と言いながら、「アップルデイリー」を手に戻ってきた。

 

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報道の自由を脅かす行為に抗議の意を示したい」というのが同僚君の新聞購入理由だ。「白紙でも買う」と言った声もあり、「アップルデイリー」への声援と、政府への抗議という、人々の想いが入り混じった朝の光景だった。

 

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(1)国安法と報道の自由の狭間でー業界側の声明文ー

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6月17日に大衆紙「アップルデイリー」の幹部5人が「香港国家安全維持法(国安法)」違反容疑で逮捕された事件。報道の自由を揺るがす大事件に市民や社会はどう反応しているのか? 日々のニュースや、実際に見聞きしたものをシリーズで記録していく。(写真は、RTHKニュースから)

 

★事件を受けて、当日(6月17日)、香港記者協会など8つのメディア組織が連名で出した声明文★

 

「同社幹部の逮捕や捜査は衝撃的でメディアや市民に不安を与えるものだ。『国安法』は言論の自由を脅かす武器と化した」と訴えた。

 

そのほか、要約するとこんな感じ。

ーーーーーー

今回の警察の行動は、昨年8月に(アップルデイリーを発行する)ネクスト・メディア社に対して行った捜査よりさらに踏み込んだもので、出版物の内容にまで及んでいる。保安局長は、数十本の記事が「国安法」違反の証拠だと述べ、新聞業界に恐怖を与えている。

 

記者はニュースソースを守り、守秘義務を厳守することで報道の自由を守ってきた。しかし警察は、法廷から捜査令状を取得して報道の現場を隈なく捜査し、携帯電話やパソコン、情報源の資料などを押収した。秘密保持への脅威であり、メディアや市民の萎縮効果を狙ったものだ。

 

政府は早急にどんな内容が「国安法」に触れたのか、詳細を説明すべきだ。

 

ーーーーーー

 

この日の政府側の反応:

林鄭月娥行政長官:記者の質問に無言で立ち去る。

 

李家超保安局長の記者会見での発言 :

現在警察が押収したものを精査中。詳細は言えない。新聞というツールを利用して国家安全に危害を与えることを企てたものだ。

 

「国安法」に違反しているかどうかはどんな意図で行動したかによる。

 

((中国共産党結党100周年と、香港の中国返還24周年を迎える)7月1日を前に「アップルデイリー」に新聞の発行停止命令を出すのか問われ)「警察は法律や証拠に基づいて行動する。国家の安全は一大事でどんな行動も法律に基づいて行う。新聞発行を継続するか停止するかは、企業が決めることだ。

 

 

「時代天使」、上場初日は大暴騰

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6月16日に香港株式市場に上場した中国企業「時代天使(angelalign)」(コード番号6699)が、公募価格の173香港ドル(以下ドル)に対して、なんと約2.3倍の401ドルという超高値をつけて引けた。初値は400ドル、高値は490ドル、安値は375ドルだった。(写真は、時代天使社のサイトから引用)

 

今日(6月16日)の香港各紙の経済面に「時代天使」の名前が踊っていて、すごい名前の企業が出てきたものだと思ったら、株価も超値上がりしてすごかった。どんな会社なのかとサイトを見たら、透明の歯形がアップで出てきた。

 

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(時代天使社のサイトから)

 

同社は、透明のマウスピース型矯正システムを提供する会社。2003年に設立。マウスピース矯正とは、ワイヤーなどを使わない透明素材の矯正装置を使って歯並びを整えるもの。取り外しができる透明なマウスピースを患者の歯並びに合わせて、段階的に取り変えながら歯並びの治療を行うという、矯正治療の中でも新しい治療方法だ。2020年の実績数ベースで、同社ともう1社で中国でのこの市場の82.4%を占める。制約額ベースでは同社がシェア約41%を占めるという。

 

この株を持っているわけでもないのに、公募価格の約2.3倍の株価で引けるって、一体いくらぐらいの利益なの?と、思わず電卓を叩いてみた。取引単位は200株なので、公募の抽選で200株を運良く手にした投資家は、初日に売却していなければ、単純計算で、4万5600ドル(約64万6000円)の含み益を持ったことになる。すごい!まぁ、公募には申し込みが殺到して、200株枠だけでも、割り当てられる確率は1.5%だったそうだから、手にした人はよっぽど運が良かったということだ。

 

それにしても、ほんの30年ぐらい前までは食べる物や生活必需品にも困っていたような彼の国で、先端技術を駆使した歯の矯正システムの販売企業が株式を上場させる時代が来るなんて。彼の国の技術革新のスピードの速さはやっぱり侮れない。そして、こういう市場が出来上がるほど、市民の生活水準が上がり豊かになったのだということも。

 

 

2021年6月4日の香港メモリー

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天安門事件から32回目を迎えた6月4日の香港。この歴史的一日に私が見聞きしたものを忘れないようにメモしておく。


午後。事件の翌年から毎年、犠牲者を追悼と中国の民主化を願って行われた「6・4集会」の場所だったビクトリア公園は、封鎖された。昨年も今年同様、コロナ対策を理由に集会は許可されなかったが、市民は自由にここに集まって追悼できた。しかし、「国安法」施行後、初の6月4日となったこの日は、市民が立ち入ることさえ許されなかった。

 

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九龍半島西側の郊外・葵芳駅前でも、夕方を前に複数の警官の姿が(上の写真)。ここは昨年は無料でキャンドルが配られ、大勢の市民が列を作っていた場所だ。警官は厳しく見守るというよりも、違法集会が行われないように見張ってますよ、とメッセージを送っているような感じ。リラックスはしていたが、やや重々しい空気が漂う(5日付香港紙によると、夜にはこの場所にも若者らが結構な数で集まったらしい)


午後7時過ぎ。九龍半島東部の郊外・坑口駅近くにある聖アンドリュー教会に行く。この日、ビクトリア公園での集会は禁じられたが、教会内の宗教活動はこの限りではないから、ミサで犠牲者を追悼するというもの。ここは、そのミサを行う7つの教会のうちの一つだった。

 

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(満席を告げる張り紙)

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(教会入り口)


ミサは、午後8時からだが、私が着いた午後7時15分ごろには、すでに入り口に満席の張り紙が。(新型コロナ感染防止のため、この日の収容人数は270人のみ)。その後も続々と人がやってくるが、入れない。立ち去る人もいれば、教会前に残る人もいた。

 

この教会によると、6月4日に天安門事件の犠牲者を追悼するミサを行うのは、昨年に続いて2度目とのこと。それまでは、6月4日以外の日に教会で犠牲者への祈りを捧げ、4日当日はビクトリア公園の追悼集会に参加していたのだという。公園での集会が禁じられたので、4日にミサを行うことにしたわけだ。来年以降も、教会内だけが市民が集まって犠牲者を追悼する場所になるのだろうか?

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(教会正面)


ミサが始まると、教会の外に留まり、携帯でミサのライブを見る市民も。ほどなくして警察車がやってきた。携帯のライトを灯すことも、この場に止まることも違法だと言い、排除しようとする。警官に罵声が飛ぶと、警官がその声の方向に向かっていった。

 

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(男性を取り囲む警官ら)

 

年配の男性と女性が、別々の場所で警官10人ぐらいづつに取り囲まれた。警官の一人はずっと対象者をビデオ録画している。やがて女性は警察車にのせられて、連行された。遠目で一連の様子を伺っている市民にも警察は違法行為だと告げ、ビデオカメラで周辺を録画しながら立ち去るよう警告する。

 

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(荷物検査も)

 

教会近くの公園入り口では荷物検査を受ける市民の姿も。普通に散歩するのも憚られる雰囲気だった。


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(大勢の警官が集結)


ミサが終わる頃には警官の数が倍増し、「ここにいる人はこの場を離れないと違法だ」と、それまで以上に強く警告しながら、横一線に列を組んで教会周辺でミサのライブを見ていた市民の排除にかかった。スピーカーホンで警告し、ビデオ撮影しながら、市民を教会からどんどん遠ざけていった。(教会から出てくる人と合流させたくないのだろう)


一方、周辺の団地からは、毎年、ビクトリア公園の追悼集会で流れる音楽が大音量で流れていた。坑口駅近くの大通りでは、男性(50)が息子(10)を連れて、手作りのキャンドルを手に、やはり「6・4集会」で流れる音楽を流し追悼していた(写真下)。男性は、「ビクトリア公園での集会が出来なくなり、事件が風化していくの心配だ。皆に事件を忘れないで欲しいという想いも込めて、あえて目立つ場所で追悼しているんだ」と語った。場所が変わっても、集会を阻んでも、犠牲者を追悼する気持ちに変わりはないという心の叫びも伝わってくる。それにしても、香港がこんな社会に変わり果てるとは。

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その後、ビクトリア公園がある香港島の繁華街・銅鑼湾に行ってみた。(例年なら追悼集会が終了する)夜10時を過ぎているというのに、「そごう」前は警官と市民が大勢いた。ニュースによると、反政府デモのスローガンを叫んだ人もいたようだが、私が見たのは、若者らが携帯電話のライトをキャンドル代わりにして歩いている姿。ところどころで、警察の荷物検査を受けている若者らがいたが、さっきの教会周辺に比べたら、市民も警官も、人数は圧倒的に多いのに、緊迫感は全然違っていた。


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人が集まりがちなエリアにロープが張られていたのが目立ったぐらい(写真上)。若者らは、追悼というより、最近の民主活動家や市民への締め付けに、無言で抗議のデモをしているようだった。警察はそんな市民の様子を見守っているという感じだった。(と言っても、警官は皆小型カメラを胸に着け、しっかり録画しているようだったけど)

 

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(いずれの写真も午後10時過ぎの銅鑼湾風景)


事件から32年目の今年、主役を失ったこの日のビクトリア公園はどうなっていたのか?

 

(例年集会が終了する)夜10時を過ぎても、全ての出入り口は警告の横断幕付きで、鉄格子で封鎖されていた。その付近に警官1-2人程度が見張りとしているぐらいだった。ただし、周辺道路は警察車が多く停泊。過去31年間、数万人規模の市民で埋め尽くされたこの公園は、ひっそりと静まり返り、サッカー場やバスケットコートを照らす無数のライトの光が、哀愁を漂わせていた。

 


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(いずれの写真も午後10時過ぎのビクトリア公園周辺風景)


親中派の新聞「文匯報」は2012年から、「大公報」は2016年から、「6・4集会」の文字は消えている。学校では、今年から天安門事件については触れなくなったそうだ。香港にある中国政府の出先機関「中央駐香港連絡弁公室」(中連弁)トップの駱恵寧主任は先日、「『共産党一党独裁終結』を呼びかける者は大敵だ」と発言。追悼集会を主催してきた支連会が、一党独裁終結を綱領にしているため、支連会の存続を危ぶむ声も出始めてきた。

 

香港はこれまで、中国本土とは別に、唯一大規模な追悼集会を行なってきたが、いよいよそうもいかなくなってきた。そういう意味で今年の香港の6月4日は、歴史的な転換点となったと思う。

 

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(親中派新聞から「64」の文字が消えたことを記事にした6月8日付「アップルデイリー」)

 

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(「一党独裁終結」を呼びかける者は大敵だとの中連弁トップの発言を伝える6月13日付「明報」)


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(ビクトリア公園周辺で見かけた白い菊の花と追悼のキャンドル)